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[月の砦] 9
- 2015/05/19(Tue) -
 新月の夜は、一刻を闇が深い森を包み込む。そして星はその森を覆うように輝いている。

 私は寝台で歌を歌っていた。新月の歌を。

 今この時、月の姉はここからは見えない。歌を歌えば、姉妹たちは繋がりを持つ。コーラスとハーモニーとなって、一律の元に旋律が紡がれる歌。

私「静寂を(この胸に)

 深みに添えて(悠久)

 波紋広げた星影

 心まで透かす(光りは)

 今はそっと引き寄せるわ

 (ああ 連れていかれた旅立つ者は)

 ああ 天を見上げる者たちは

 (めぐり合って)交じり合う言葉

 月の巡りと出会うなら

 そっとお伝えいたしましょう

 愛を (愛の) 証拠を (証を)」

 姉妹たちの声も重なる……。

私「………」

 何かの気配を感じ取り、私は顔を森へ向ける。

 誰か、歩いてきている。それは長いコートを着た人で、髪は乱れていた。

 片手に何かを持っていて、星明りに鈍く黄金に光っている。そのくすんだ何かは、楽器なのだと陰から完全にあらわになって判明した。

 トランペット。多少の錆びが伺える。そして手垢も見られた。古めかしい印象のそれは、その人の指だし革グローブの手に持たれている。

 その人はうつろな目で辺りを見回すと、丁度いい太さの幹を見つけるとその下に腰を下ろした。それで、口元にマウスピースを加えて、トランペットを吹きはじめた。泉にそれが星と共に映っている。

 けれど、その楽器は満足に音は出なかった。それは楽器の一部が目に見えて壊れていたから。

 その人は再びうつろな目をして、それを見てから口を閉ざしたままに腕を下げた。

 私は汚れたコートを着たその人のところへ降りていく。髪には枯葉が絡み着き、笑顔を知らない頬の上に、近くで見るとギラギラと光る大きな目が据わっていた。星明りを映している。だから、泣いて思えた。

私「お姉さんは、何故トランペットが壊れてしまったの」

 「これはね……争いに巻き込まれてしまったのよ」

 手のジェスチャーで走っている指人形をして、楽器が遠くへ跳んで云った風を現した。

私「お姉さんも?」

 お姉さんは何も言わずに視線を落とし、ブーツの靴元を片方伸ばした。

 「争いは心の内に巻き起こる。それが、許容範囲を越えた時に何かがこうやって傷つく」

 私はその横にしゃがむと、次に草地に共に座った。

 「ちょっと、疲れたな。深い眠りは心に平安を一時生んでくれるのね。ここ、とても美しいところだわ」

私「お姉さんのトランペット、ここでならいつか、鳴らせるかもしれない」

 お姉さんは初めて口端を、ぎこちなくだけれど上げてくれた。

 「きっとまだ鳴らないのは、私の心が鳴らないからなのね。今までのように光の内側で」

 壊れたトランペットは現実的に修理をすれば治る場合もある。管を打ち直したり、ひしゃげた弁を変えたり。深刻なダメージを負うと分解したあとにそれぞれにあった部品を作る事になるのではないのかしら。

 「楽器や音楽ってね、不思議なのよ……」

 お姉さんは満天の星を見上げながら言った。彼女の目にはまだ微かな望みがあるから光を映し込んでいるんだわ。

 「音楽は時に人を癒し、元気にし、励まし、微笑みを与え、涙を与え、そして暴力的にもするし、深い愛を伝えられたりもする。心分かち合うことも出来るし、心を病ませることもある。何故かしらね。それが時に恐ろしくもあり悲しいわ。音楽を愛しているのに、時に負の力や魔力を持つ音楽は心を狂わせてくる。心で争いを起こさせる。何故なら、それらの曲さえもとても美しいものだから、誘惑に混乱させられる。浸っていたくさせるその音楽が、まるで罪の無い花のように愛らしいの」

 いつのまにか彼女は俯いて泉の星からも目を外して、そして私を見下ろした。微笑んで。

 「あなたは楽器が武器になると思う?」

私「それは、もしかしたら心を動かすものとして?」

 彼女は頷いた。

私「良い意味での道具になるなら、なると思うわ。心を掻き乱すハープも、大人の愛を表すような音色のトランペットも、ただただ無垢なオカリナの音も、愛に必要な小鳥の囀りも、美しいもの」

 お姉さんは微笑んで私の頬を撫でた。

 「申しわけ無いわ。一緒に泣いてくれるだなんて」

 自覚が無かったから、手の甲で頬を拭うと風に吹かれて冷えた手の甲は月明かりに濡れていた。そして雫はぽとりと手の甲から流れ落ちた。

 「私が悲しい顔をしたからね……」

 泉の向こうに咲く花を遠い目で見つめた横顔を見上げる。

私「無理などしなくていいの。辛いときは誰でも辛いわ」

 私は彼女の肩にこめかみを乗せて、しばらくはずっと泉に映る満天の星と、その先の白い花畑と、それを囲う森を見つめた。

 お姉さんはふとポケットを探って、私の前に差し出した。

 「花の種」

 私は手のひらに乗る種を見た。

 「私の国に咲く花」

 お姉さんは微笑んで、トランペットを片手にすっと立ち上がった。私は種を受け取ったまま、彼女の背を見送る。

 きっと、吹けるようになっているわ。いずれは。

 その楽器の傷は彼女の心の傷みだったのかもしれない。それも癒えれば、美しい頃の音色は心と共に返ってくる。

 お姉さんは森の奥へと歩いていき、いつしか気配も遠のいていた。

 私は花の種を見つめた。これは何の花か、種で分かった。ただただ純粋に心が花を求めて、無造作にポケットにいれていたのだわ。

 また、これを大切に保存しておいて、彼女の国から来た人に持たせてあげよう……。

 しあわせの象徴として。


月の砦 9
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